武士の家計簿

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新
2003/新潮新書 磯田道史




「武士は喰わねど高楊枝」とよばれるほど,武士の貧乏イメージは強い.
しかし,実際の所どうだったのか?

著者は,ある日古本屋で手に入れた金沢藩士猪山家の家計簿を丹念に読み解き,江戸・幕末・明治期のある家族の家計事情を記している.

細かい金勘定のアレコレももちろん興味深いが,なにより江戸時代の武士を取り巻く環境,行政職の実際などはとても面白い.

たった千石といえども,領民が存在する上に行政が存在する.
完全な「世襲制」の中にあった江戸時代.立身出世は先祖の働きによって規定されていた中で,「算術」の能力だけは,「世襲」ではどうにもならないこともあって,能力主義がとられていたという.
「算術から身分制度が崩れる」というのは,近代社会が成立する際の常識なんだとか.

そのほか,地方知行制とよばれる行政制度なんかも面白い.


で,肝心の武士の家計事情.
やはり貧乏であったというのは,間違いないようである.
武士を貧乏にさせる巧みな(?)制度の数々.
それはいわゆる「圧倒的な勝ち組」を作らない社会.

武士としての建前を保つための莫大な「身分費用」.世襲意識が強いために先祖への供養代もまた莫大である.
こういったとてつもないしがらみの中で生きてきた武士.
“武士道”と呼ばれる精神も,これでは形無し・・・との印象を受ける.


ただ,時代の激流の中,多くの士族が没落していく中で,この猪山家はよく時流に乗って活躍したようである.
それも「世襲」によらず,自らの「能力」でもって,よく考え,行動した結果ともいえる.


結局いつの世でも,自分でよく考え行動したものが残るのか.
一家族の家計簿の中から,こんな処世術が浮かび上がる.なかなか興味深い本でした.



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