WTO交渉と日本の農政

WTO交渉と日本の農政―問われる食の安全・安心
2005/筑波書店 中原准一著




日本の農政を考える上で,いまやWTO事情は欠かせない.
とはいっても,各国の思惑が錯綜する交渉事象であるために,情勢は絶えず変化するので新聞やTVの報道だけでは,なかなか全体像をつかみにくい.

私も農学部に所属する身であるので,教養として?
いや,バックグラウンドとしてこういった事象を知っておく必要があるので,今回読んでみた.

本書は,食の安全について(第2章),米政策について(第3章),農協について(第4章)と,日本でよく話題になる農業事情についても触れられているが,あくまでも核となっているのは,第1章のWTO交渉のゆくえである.

86~94年のGATTO・ウルグアイラウンドで打ち出された「例外なき関税化」によって,それまで神聖域であった農業も関税化されはじめた.日本もミニマムアクセスという形で,米の輸入を開始せざるを得なくなった.

国益のために積極的に自由化を主張するアメリカおよびケアンズグループ.
対する側も国益のために,自由化を出来るだけ緩やかにして多様な農業の共存をはかりたい日本やEU諸国.
これに,途上国が加わった三つどもえのやりとりは,果てしない.

WTOは,満場一致を原則とするため,とくに難しい.

しかし,アメリカは自由化を主張しながら,2002年に農業法を成立させ,生産刺激的でない助成制度をつくり,自国の農業保護に乗り出すという矛盾.
EUも,アメリカと対立しつつも,「農業保護の消費者負担から納税者負担への転換」をはかるCAP改革を2003年に実施.
日本と同調する姿勢をみせておきながら,自由化を受け入れられる体制を着実に整える強かさを見せる.

日本は,農業の多面的機能を訴え,農業生産以外のプラス効果を前面に押し出す.
EUも,同様に多面的機能を唱えつつも基本的には,農業は「環境汚染の原因者」として捉えていることによる温度差は,思いの他大きい.

事情を知れば知るほど,世界の中における日本農業の分の悪さを痛感する.

確実な食の安全,農家が豊かになる米政策,生産者・消費者を良好につなぐ農協.
こういった理想を日本国民の誰もが追い求めてはいるが,そうさせてくれない様々な事情に,くすぶる不安・不満.

本書によって,WTO事情をあらためて俯瞰できたと同時に,それを知った上で,食の安全などの事象を読むと,カラーが全然違って見えることを実感することが出来ました.

場当たり的に,農作物の価格や,食の安全云々を叫ぶ前に,一度,世界の農政全体を俯瞰してみてはいかがでしょうか?





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