他人を見下す若者たち

他人を見下す若者たち
2006/講談社新書 速水敏彦




「なんだかわかんえーけどよ・・・
 ムカつくんだよな・・・
 さっきから・・・」


本書の表紙の帯についている漫画の一コマである.

いま,「自分以外はバカ」だと無意識に思っていると考えられる若者が溢れている.
いや.
若者だけではない.年輩者にもみられ,電車の中,道ばた,お店の中,会社の中etc
と例示するまでもなく,他者を軽視する感覚があちこちに満ちている.


本書は,この瞬間的に本人が感じる「自分は他人に比べてエライ,有能だ」という習慣的な感覚を「仮想的有能感」と定義し,どういう場面でこの感覚が現れ,またどういう要素がこういった感覚を産み出しているのかを,様々な調査・文献などから丹念に読み解こうとした意欲的な本である.


平和で豊かな時代が長く続き,貧しさからくる哀しみから縁遠くなった現代.
民主主義は深まり,教育もいつしかゆとりが大事とされ,自由で競争のない,平等な教育が尊重された.社会の側も,集団的思考・行動よりも個人的な思考・行動が求められることが多くなり,人間関係が希薄化した.


個人主義の社会では,悲しみや,人に助けを求めることは弱みになる.
勝ち負けが明確にならないさまざまな教育的配慮のおかげで,自分の長所が見えにくくなった.
自由にさせられたおかげで,何らかの方向性も示されず,誇大な自己が温存されたままになった.


そういった状態の中で若者は,やりたいことや将来の目標を自ら探して,自己責任のもとに人生を形成することを社会から求められる.


けれども,いざ求められても,自分の長所がわからない.どこへ向くべきなのかわからない.社会に必要とされているのかもわからない.


でも,わからないことを表に出すことは,弱みをみせること.それはできないし,できれば自分自身で自分が価値あるものと思いたい.


そこで・・・


勝手に他人の能力を軽視してみる.
すると,偽りだけどもプライドのようなものが感じられる.少しだけ,優れた存在のように感じる.気持ちいい・・・

これを無意識に繰り返し,徐々に他者を軽視することで,偽りの自己肯定感を強化させ,自尊感情を産み出すことで形成されるのが,「仮想的有能感」なのだという.


しかし,それは若者だけに現れるものではないという.
ケイタイの普及によるメールコミュニケーションの発達や,マスコミによって繰り返される権威の化けの皮はがし,インターネットの匿名性による他者軽視の強化と常習化といったものによって,広く国民の間に見られるようになったという.

年輩者も例外ではない.「最近の若者は・・・」と若者を軽視することによって,自尊感情を満足させている.


私たちの心はどこへ向かっていくのでしょうか.
この本を読んでいると,不安になっていってしまいます.


でも著者は,あくまで楽観的です.
というのもこの仮想的有能感説が,まだ検討が不十分でさまざまな要素との因果関係が不鮮明であることと,人間の賢さを信じているから.そして,3つの対策を提示しています.

まずは,しつけを強化すること.個人的である前に社会的であることをきちんとしつけること.

つぎに,褒めるところは褒め,ダメなところはダメだと認めさせることで,しっかりとした身のある自尊感情を身につけさせること.

そして,なによりコミュニケーションを密にすること.と.


本書は,言葉・イメージが一人歩きしないように,言い過ぎないように,まだ仮説であるということを強調しながら,丁寧に論じている感じがして,好感が持てました.
教育の現場で,感じる感覚と一致する点も多々みられましたので,学生たちの心のあり方の参考にさせてもらおうか,そんな想いを持たせた本でした.



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